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映画はエンターテインメントでありつつも、アートフォームであって欲しいと願っています。    同じような気持ちで映画を観ているひとの慰みになれば幸いです★
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原題:BORDERTOWN
製作年:2006年
製作国:アメリカ
監督:グレゴリー・ナヴァ
出演:ジェニファー・ロペス、アントニオ・バンデラス、
マヤ・ザパタ、マーティン・シーン



________________________

以前映画館で予告編を見て、気になっていた1本。
アメリカとの国境に面した、メキシコのフアレスという街で、
強姦、殺害遺棄された女性たちが、
何千人も発見されているという実話を元に紡がれた物語である。

僕は本作を観るまでこの事実について何も知らなかったのだが、
一連の殺人の背景には、1994年に発効された北米自由貿易協定があるようだ。
日本にも米の輸入自由化を迫っているアメリカが、
自国への経済効果のため、この協定をフル活用していることは容易に想像できる。
そしてメキシコ国内では、輸出量を増やすことで利益を得た富裕層と、
安価な輸入作物に押され困窮にあえぐ貧困層(農民)との間に、
大きな格差が広がっている。
加えて貧困層は、日本を含む海外資本の工場用に土地を奪われ、
1日数ドルという賃金で、奴隷のように酷使されているのだ。

一連の事件の餌食となった女性たちは、
深夜まで続いた工場での労働の後、
遠方にある住居へと帰宅する際に襲われたという。
電気や水道などの基本的な設備も充分に整っていない貧民窟は、
ただでさえ危険な上に、周辺に砂漠もあるという過酷な環境だ。
犯罪の隠蔽にはうってつけなのである。

この事件の悲惨さは、貧困層の女性の人権が徹底して蹂躙されているところにある。
政府は国内の富裕層拡大により促進される、
国力の増大に期待をかけており、
北米自由貿易協定の存続を望んでいる。
多くの犠牲が払われている過去と現状には、目をつぶっておきたいのだ。
一連の事件に関して検挙、逮捕された人物は一人もいないというのだから驚く。

DVDの特典映像に収録されたインタビュー映像の中で、
グレゴリー・ナヴァ監督は、「女性たちが使い捨てにされている」と訴える。
本作の製作にあたり、脅迫や妨害にも遭遇しており、
フアレスでの撮影中には、スタッフを誘拐、監禁されたというのだから酷い。
全く、国際的な醜聞ではないか。
作品内でも描かれていることだが、メキシコでは警察権力までもが一丸となって、
一連の事件を闇に葬ろうとしている。
先進国で発生する、精神異常の単独犯による連続殺人とは、
事件の質そのものが異なるのだ。

しかし純粋に映画として観ると、
本作は所詮”社会派サスペンス”の域にとどまっている。
ストーリー展開、演出ともに凡庸であり、
作品として突出した部分に欠けている。
散見されるドキュメント映像のような編集法や、
荒涼とした砂漠を映し出す”巧みな色使い”が印象に残るぐらいだ。

だがそうした仕上がりは、監督の確信犯的な戦略とも受け取れる。
すでにメキシコでは、この問題を扱った『消えた少女たち』(2001年)という
ドキュメンタリー・フィルムが製作されているが、、
マジョリティの関心を集めるまでには至らなかった様子。
敢えて観衆レベルに合わせた娯楽作品に仕立てることで、
より広範囲に問題を提起できると考えたのではないだろうか?
だが努力も虚しく、本作の全米公開は見送られた。
この事実からも、問題の寒々しい背景はさらに明確に浮き彫りとなってくるのである。

このブログのリード部分にも記しているが、
僕は映画をアートとして、娯楽として楽しみたいと、基本的には思っている。
だが映画は、一介の視点から政治の腐敗を告発するメディアとしても有効という事実に、
時に気づかされる。
その意味で本作には、内容以前の価値があった。

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