製作年:1966年
製作国:日本
監督:増村保造
出演:市川雷蔵、小川真由美、加東大介、待田京介、村瀬幸子
ゲオには、昭和の邦画ラインナップが圧倒的に不足している。
黒澤、小津はほぼ揃っているが、溝口は1~2作、 川島雄三は『幕末太陽傳』のみ、
成瀬に至っては1作もないというていたらく(たぶん全店共通)。
なぜか東映のヤクザ映画だけが充実している。
結局バイヤーが「リアルタイムの人間しか観ない」と決めつけているのだろう。
ゲオの頭の固いところだ。
増村は『兵隊やくざ』と本作という「シリーズもの」だけが置いてあるので、
兎に角借りてみた。
軍ものかと思いきやスパイものという、意外性のある設定が面白い。
脚本にはシニカルな反戦志向が多分に込められており、
陸軍は総じて悪役として描かれる。
ただし戦友や恋人を大義のために犬死させるという、日本特有の美意識も。
スパイ養成シーンの覗き見的な面白さ、
小川真由美まで意図せずスパイになるという展開も凝っている。
冒頭の軍服ブーツには、レザーフェチ的な美しさも…。
雷蔵の出番は意外と少なく、東宝からゲスト扱いの加東の名演が印象に残る。
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製作年:2013年
製作国:日本
監督:OZAWA
出演:小沢仁志、ベル、山口祥行、勝矢、宮村優、美川憲一
ゲオには「ネオやくざ」なるコーナーがある。
普段見向きもしないのだが、本作は一応ゲイとして見ておこうかしらん、と手に取った。
低予算なデジタル画面の粗さはいかんともしがたいものの
(タイトルロールには営業総括担当という見慣れないクレジットもw)、
編集のテンポは平均以上に良く、
少なくとも映画的な撮影セオリーは知る人間の作品という感じ。
セットのシーンはほとんどなく、
二丁目のバーなど(個人的に)見慣れた新宿の風景の中でロケを行っており、
リアリティは自然と画面に加味されている。
テン年代に「ニューハーフを絡めた任侠ものを敢えて」という
大前提は了承して観なければならないが
(実は鑑賞し始めるまで、バブル期の作品と思い込んでいた)、
ゲイ界隈とは不可分な「軽いユーモア」を演出に取り入れているため、
暴力的な印象は随分中和されている。
「敷居を跨ぐのを憚る」という珍しい動きを伴うコメディ演出も、シュールでユニーク。
ラストの襲名シーンには『緋牡丹博徒』へのオマージュ的な雰囲気も。
女装した小沢仁志の逞しい背中を劇画化したポスターを見るにつけ、
意外とマジに東映魂を継承する意気込みだったのかも、と勘ぐってしまう。
余談として、本作を鑑賞した「僕よりも上の世代のゲイの知人」は
「ラストでなぜ小沢が女装するのか、理由をきちんと語っていない」と 憤慨していたが…。
「弟の死を悔やむ主人公が、大恩ある先代の実子の、背中を押す意味でも選んだ死装束」、
ということで良いのではないのだろうか。
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ちなみに転居先の周辺には、ゲオがない。
その代わりTSUTAYAが駅周辺にあるのだが、
中小店舗で品揃えはゲオと大差ないかも…。
今後の僕の映画ライフは、どうなっていくかしらん。
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★『兵隊やくざ』
製作年:1965年
製作国:日本
監督:増村保造
出演:勝新太郎、田村高廣、淡路恵子
こんなにCC的な映画なのに、ゲイの間ではほとんど語られることがない。
増村らしいスピーディな演出/編集で、軍隊の不条理な暴力が
次々と描き出される内容なのだから、ゲイが好むはずもない。
しかし90分我慢した先には、相応のカタルシスがあるのだ。
もちろん公開当時に観たゲイは、こちらが想像する以上のものを読み取ったであろう。
しかしその感動が次代に伝わっていないのは、一種の悲劇である。
深読みは近年、ノンケの映画ファンの方が先じている状況。
田村高廣も脚本の裏テーマを理解したうえで、演じていたらしい。
監督は当時欧米で制作された『軍曹』とか『禁じられた情事の森』とか
『ベン・ハー』のような映画を、意識していたのかも?
そうした感性は、90年代にニュー・クイアシネマの影響を受け、
こぞってゲイ映画を作った中華圏の若手監督に通ずるものがある。
最もこちらはバディ映画だが。
本作はシリーズ化され、10本近く制作されたらしいので、
これから少しずつ観て、CC的場面を探っていく楽しみができた。
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★『異常性愛記録 ハレンチ』
製作年:1969年
製作国:日本
監督:石井輝男
出演:若杉英二、橘ますみ、吉田輝雄
「ラインシリーズ」で石井監督の大ファンになった僕。
近年の『ねじ式』もすごく良かった。
こちらは東映エログロ路線中の一作。
若杉英二演じるハレンチ男が、単なるしかめ面の暴君ではなく、
妙に陽気で赤ちゃん言葉を使う変態という設定が、
すさまじく汚らわしい。
対してヒロインの橘ますみは中途半端な脱ぎっぷりで、凡庸。
申し訳程度のセミヌードや、
「いやよいやよ」とかたちばかりの濡れ場にボディダブルまで使い、
少しでも汚されるのを逃れようと必死である。
ゆえに二人の絡みはチグハグで、
「なぜこんなカップルが出来上がったのか」という必然が
小指の先ほども伝わってこない。
ナンセンスな失敗作という雰囲気は濃厚なのだが、
後半に起死回生とばかり大挙登場するゲイボーイ軍団のお陰で、
画面はキツく締まりはじめる。
まずフル女装のサディストが、下着女装のマゾ若杉を
ホテルの一室でビザールにお仕置き!
さらに別シーンでは、
橘にフラれた若杉が流れ着いたゴーゴーバーで、
ひと夜のお相手にゲイボーイを物色し始める。
彼と女装オカマが繰り広げる軽妙なやり取りには、思わず爆笑!
ついには怪しげな覗き部屋で、変態男とオカマの3Pが展開されるに至る……。
サイケデリックな照明を駆使して撮り下ろされたこれらのシーンには、
グロテスクな欲望の持つ惨めさやうしろ暗さを、
カラリと笑い飛ばすユーモアが漂っていた。
監督が若杉英二を通して描きたかった、
本物のハレンチ男を受け止められるのは、
やはり酸いも甘いも噛み分けたゲイ以外にいない、ということなのだろうか
(迷惑な話……w)。
ドラァグクイーンなどという言葉もなかった時代の作品だが、
次々に登場する女装オカマの美粧やステロタイプが、
40年後の今と大差ないことにも、妙に感心してしまった。
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★『セックスドキュメント 性倒錯の世界』
製作年:1971年
製作国:日本
監督:中島貞夫
こちらも東映エログロ路線で、監督が何本か撮ったセックスドキュメントのうちの一作。
東郷建がカメラの前で繰り広げる本番SEXが観れる(別に観たくないがw)。
ほかにもレズビアンから、蛇使いで全国を回る見世物小屋の女まで、
さまざまな性的マイノリティを「倒錯」の一括りでまとめ、紹介している。
今となっては「資料価値」を確認する意味で、客観的に楽しむ余裕が求められるだろう。
映画内に登場する戸川昌子サンの
「せっかくゲイに生まれたんならね、普通に生きようするなんて、つまらないじゃない。
人生そのものをアートにするような生き方を、目指せる可能性があるのにネ……」
といった趣旨の発言には、今のゲイにも充分染み渡る鋭さがある。
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★『GONIN』
製作年:1995年
製作国:日本
監督:石井隆
出演:佐藤浩市、本木雅弘、根津甚八、椎名桔平、竹中直人、ビートたけし
間もなく最新作が公開されるシリーズの第一作。
なぜこの年にこんな豪華キャストで、ゲイテイスト濃厚なヤクザ映画が作られたのか、
いまひとつ必然を感じられないが、異色作であることは確か。
しかし近年のゲイの間では、全く無視されている作品である
(公開当時のことは憶えていないが)。
数年前の『おこげ』や『きらきらひかる』、数年後の『ハッシュ!』など
誰が観てもわかるゲイ映画の狭間に葬られた希薄な存在感が、
今となってはCC的な作品といえそうだ。
恐らく監督が撮りたかったのは、佐藤×本木のキスシーンだけであろう。
根津や竹中の冗長なエピソードは、話題作りのための付け足しにほかならない。
プロデューサやら代理店やらの外圧に負け、
純粋なラブストーリーを作れなかったのがミエミエである。
しかし照明は繊細で、明らかにアート寄り。
東京のワイルドサイドを舞台として明示しながら、
どこか無国籍的な風景として描き出す手腕は、ウォン・カーウァイにも通じる。
空撮の場面もきちんとしており、絵的な格調を感じた。
過剰な暴力シーンが多いため、叫ぶような台詞回しを求められる役者陣は皆、
多かれ少なかれ大根に見える。
そして本作に最も美しい容姿を刻みつけたのは、意外にも鶴見辰吾だった。
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ちなみに冒頭で紹介したゲイバーは『Bridge』。
店内には国内で公開されたゲイ関係の映画パンフレットが、ほぼすべて揃っている!
普段来店する凡百のゲイには無視されているライブラリーだが、
いつでも君が訪れるのを、待っているはず。
http://www.bar-bridge.com/